Teruhiro Yanagihara Studio

2002年、デザイナーの柳原照弘によって創設され、日本、フランス、英国、オランダなど、多拠点から参画するスタッフとともにレストランやショップの空間デザインから、家具、テーブルウェアなどのプロダクトデザイン、テキスタイルデザイン、さらに香りのデザインまで、国内外で多岐に及ぶプロジェクトを手がけるデザインスタジオ。

プロジェクトのクライアントとなる企業やブランドの価値の本質を見極め、その世界観を包括的に伝える上で、空間や商品だけではなく、コミュニケーションツールなどのアートディレクションを含めたブランディング構築を手がけることもある。そのために、プロジェクトが生まれる土地の歴史や風土を入念にリサーチし、とりわけて伝統的な素材や技法に目を向け、伝統が時代に置き去りにされることのないよう、現代の暮らしの中に伝承していくデザインに意を注ぐ。

Conversations with Teruhiro Yanagihara Studio

Interview

Teruhiro Yanagihara Studio

“このタイルが100年ほど先まで残る建物に使われて、遠い未来に「ダントー製だったんだ」と誰かが発見し、何かしらを感じてもらえたら嬉しいという思い”

瀬戸内の穏やかな海に浮かぶ淡路島。日本建国の神話が生まれたこの土地では、有史以来、人々は大陸からの文物を取り入れる寛容な志で、視線の先にある世界を見つめてきました。そんな土地から、新たなタイルのブランドAlternative Artefacts Danto (以下、A.a. Danto)が誕生しました。A.a. Dantoは、瀬戸内海に浮かぶ淡路島で1885年に創業したタイルメーカーのダントーが新たに立ち上げたブランドです。ブランドを立ち上げるにあたり、ダントーが積み重ねてきた歴史を掘り起こしながら、未来に向けたものづくりに取り組もうと、もうひとつの考古学という意味を持たせたAlternative Artefactsと名付けました。A.a. Dantoはどんなことができるのか、何を目指すのか、クリエイティブディレクターの柳原照弘が語ります。

インタビュー・文 長谷川香苗

名前を聞いたことがなくても、私たちは普段からダントーのタイルを目にしているそうですね?

(TYS)

A.a. Dantoの母体となっているダントーは、1885年に日本で最初に硬質陶器タイル(現在は磁器質タイルを製造)を量産化したメーカーです。日本各地で使用されているタイルの多くがダントーのタイルであるなど、日々の暮らしの中に浸透しています。また、それほど多くのタイルを作ることが可能な生産体制を持つ企業です。ダントーでは、日々研究開発に努め、タイルという馴染みのある素材に革新をもたらしてきました。様々なタイルを作ってきたということは、端的に言えば、どんな要望のタイルでも作ることができるということ。タイルというと、水回り空間の仕上げ材をイメージするかもしれませんが、公共の建築空間にもダントーのタイルは広く使われてきました。

そんなダントーの強みはどのようなところにあるのでしょう?

(TYS)

ダントーには2つの工場があり、それぞれが異なる種類のタイルを生産しています。福良工場では加飾を軸にした多層成形タイルを製造しています。ミルフィーユのように重ねられた土の層の最後の仕上げに、ブラストによる表面加工で層を部分的に剥ぎ取ったり、土の表面に陶土や釉薬を機械噴射し、天然大理石や石を思わせる結晶のようなパターンを塗布します。機械による噴射ですが、吹き付けられたパターンに微差が生まれるように設計されています。精緻にコントロールされた機械生産でありながらも、ノズルから吹き付けられる細かい粒子の土や釉薬により手作りのような不均一さを生み出しています。もうひとつの阿万工場は、タイルの素地そのものに特化した生産工場です。ここでは、日本各地の山から掘り出された土を独自に配合することで、施釉しなくても土そのものが様々な色を帯びたタイルを生産しています。

ダントーの大きな特徴は、土づくりにあると考えます。日本各地の土を配合することで陶土そのものに色合いや質感など無数のバリエーションを与えることが可能なのです。こうしたタイルの原料である土からブレンドするダントーのタイルづくりは、板チョコレートに例えるとわかりやすいかもしれません。様々な産地のカカオ豆をショコラティエそれぞれがブレンドすることで、ショコラティエの個性がでますが、タブレット型に型押し成形することで、量産を可能にしています。ダントーでは、あえて異なる産地の土を混ぜ合わせることで、工業製品に適した安定した土を作ることができます。配合された土で均質なタイルを作る確かな技術力と、それを大量生産することのできる生産体制を整えているのがダントーです。

これはダントーの長い歩みの中で培われてきたもので、1900年頃から、淡路島の土だけでは質的に限界があると感じた創業者が、他の地域の土にも目を向け、各地の土を混ぜ合わせた陶土づくりに取り組みだしました。淡路島の土着性にこだわることなく、よいものを外から積極的に取り入れる柔軟な考えが古くからあったのです。土の色によって、釉薬を施さなくても素地そのものに多彩なパレットが生まれます。焼成が一度で済むため、燃料費の点からもコストを抑えることになり、それが最終製品の価格に反映されます。

そんなダントーから新しく生まれるブランドA.a. Dantoのネーミングにあたって、何か意識されたのでしょうか?

(TYS)

ダントーは約140年の歴史をもつメーカーです。Teruhiro Yanagihara Studioが神戸に設けたクリエイティブスペース、Vague Kobeは1938年建造のビルにあるのですが、数年前に改装するなか、内装に使われていたタイルの裏側から、それらがダントー製であることを発見したんです。おそらく考古学者が遺跡から発掘した時と同じように、歴史が今の時代に顔を覗かせたような気がしました。そんな感覚があったので、タイル業界で革新を遂げてきたダントーの歴史を掘り起こしつつ、そこから未来に向けての知識やヒントを得る気持ちを込めて、新たな考古学という意味をもたせたAlternative Artefactsという表現を頭文字にして加えました。また、私たちが昔のダントーのタイルを発見して驚いたように、このタイルが100年ほど先まで残る建物に使われて、遠い未来に「ダントー製だったんだ」と誰かが発見し、何かしらを感じてもらえたら嬉しいという思いもあります。覚えにくいかもしれませんが、形容詞くらいの感覚で、A.a.の文字はいつか消えてしまってもいいと思っています。

温故知新の考古学の視点でタイルを見るのはおもしろいですね。タイルは化石のように歴史を内包しているとも言えそうですね。ダントーの技術力、生産力を活かして、これからどんなタイルづくりができそうでしょうか?

(TYS)

A.a. Dantoからは2つのコレクションが登場します。このプロジェクトのスタンダードとなるタイルコレクションと、デザイナーが自身の建築プロジェクトを想定してデザインする限定のエディションシリーズの2つです。ダントーでは理論上、無限のカラーパレットの陶土を作ることが可能ですが、A.a. Dantoでは建築空間への導入を念頭に置いているため、あまり実験的になることなく、既存タイルのアーカイブを整理することに力点を置いています。Teruhiro Yanagihara Studioとしては、加飾されていない、素地そのものの表情を引き出すタイルを提案していて、これらのタイルが軌道に乗れば、ダントーの生産ラインを余すところなく稼働させることができます。ほかのデザイナーにも、素地のバリエーションの豊かさを理解してもらい、そのうえで、加飾されたタイルのデザインにも注力してもらいたいと考えています。

最初のコラボレーターであるインディア・マダヴィさんにはどんな取り組みを期待していますか?

(TYS)

コラボレーターにはその方の建築やインテリアプロジェクトに導入することを視野に入れてデザインをお願いしています。すでにある技術のバリエーションのアーカイブを整理したものや、ダントーの技術を活かしたタイルのデザインに加え、エディションでは、より実験的なデザインを探求してもらいたいです。マダヴィさんを初め、デザイナーには自身のプロジェクトに活用するだけではなく、ダントーについてリサーチしていただき、継往開来の姿勢でデザインしてもらうことを期待しています。まずはA.a. Dantoについて、世界中の建築家やデザイナーのみなさんに興味を持ってもらい、淡路島の工場を訪れてもらいたいと思っています。

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