Philosophy

1885年より続く淡路島の老舗タイルメーカーダントーから、デザインを通してタイルの可能性を探るブランド「Alternative Artefacts Danto」が誕生しました。TERUHIRO YANAGIHARA STUDIOによるクリエイティブ・ディレクションのもと、従来のタイルの形、用途にとらわれることなく、素材としてのタイルの可能性を探るプロジェクト。世界で活躍する建築家やデザイナー、アーティストをコラボレーターとして日本に招き、新たな視点からタイルづくりに取り組んでいきます。

コラボレーターは江戸時代の珉平焼に始まるダントーの歴史を遡り、タイル職人たちの技や、陶土の開発から取り組むことで生まれる独特のタイルの色合い、特殊な造形にも対応できる量産体制などに触れることになります。こうしたダントーの伝統、技術を活かしながらも自由なアプローチでタイルと向き合います。

タイルのもつ可能性について、A.a. Dantoのクリエイティブ・ディレクター 柳原照弘は次のように話します。

「タイルで空間の雰囲気を一変させることもできます。ダントーのタイルは土を焼成してできるため、陶器のような手触りでぬくもりを感じます。このプロジェクトを通して内装材としてのタイルの可能性を広げていきたいのです」

心に残るタイル――

普遍的な土と伝統的技術、そして常に新たなものづくりに挑戦してきたフロンティア精神、そこにクリエイターたちの視点を加えることで、A.a. Dantoは淡路島に新たな息吹をもたらしていきます。

History

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遡ること二世紀。ダントーの歴史はそのタイルのように色どりに満ちたひとりの人物によって築かれました。医学を学び、茶道、香道を嗜み、さらに醤油工場を経営する淡路島の名士、賀集珉平は茶道を通して陶器に親しんできたこともあり、この地ならではのやきもの、「淡路焼」づくりを構想します。

珉平は京都の陶工、尾形周平を招き、やきもの作りを学び、1832年、島で最初の窯「珉平窯」を開きます。師から学んだ京焼の技と、中国、朝鮮、ベトナムの伝統的な陶磁器を写しながらも、今の時代らしい、淡路の土で作られた「淡路焼」を完成させ、自身の名前にちなんで「珉平焼」と名付けました。

初期の珉平焼を代表するのは、光沢のある淡路島の白土を用いた素地に、豊かな色合いの滑沢釉を施したやきものです。京焼や中国の三彩からの影響を感じさせる独自に開発した鮮やかな釉薬が施され、徳島藩主から賞賛されました。

1885年、珉平窯を継承した淡陶社が設立されます。ちょうど欧米人たちが初めて出合った日本の文物に衝撃を受け、また、日本が近代化への一歩を踏み出した明治時代でした。こうした時代の流れの中、陶器のさらなる可能性を感じ取り、ダントーは新たな陶土の開発に取り組むことになります。そして1890年前後、土型により日本で最初の硬質陶器―タイルの量産化に成功します。とりわけ1923年の関東大震災後は、東京を始め、西洋式のレンガ造りの建物に対する需要が国内で高まり、ダントーのタイルは注目を集めました。同時に、高品質でデザイン性の高い量産可能なタイルは海外においても高い評価を獲得しました。

そんなダントーの本質は、今も昔も「土」にあります。1900年初頭までは淡路島産の白土のみを原料に使用し、陶器用の土を素焼型に押圧する湿式製法でタイルを製造していました。しかし、その後、淡路島産単一ではなく、備前、信楽、瀬戸など日本各地の土や石を配合し、圧力成形する乾式製法に移行します。さまざまな陶土の配合はダントー独自のもので、産地ごとに異なる土を混ぜ合わせることで、色彩や感触の質感などの表現において、タイルに多彩な表情をつけることができます。

また、成形用の型と釉薬も独自に開発することで革新的なタイルを生み出してきました。ダントーの革新性はデザイン面にも見られます。初期のタイルは日本のモチーフとアールヌーボーの曲線を融合させたもので、1970年代の表面はエッジの効いたファッションやデザインの影響を反映したものでした。共同制作者にはブルーノ・ムナーリらもいました。

「珉平焼」の陶器づくりは1930年頃に縮小し、主力をタイル生産に切り替えましたが、ダントーのものづくりは常に前に進んでいます。 「タイル」という枠組みにとらわれず、珉平焼が生まれた淡路島で今日も技術そしてデザインの革新に取り組んでいます。

Techniques

タイルづくりは様々な原料を調合する“製坏”から始まります。ダントーでは陶土の色、トーン、質感を操ることで、タイルに無数の命を吹き込むことが可能です。

あくことのない実験から生まれるダントーの革新と工業的規模での製造は、陶土の研究や原料の配合から、成形、装飾、焼成、仕上げにいたるすべての工程を通して、素材そのものの持つ表情を引き出すことを第一においています。

そのクリエイションは常に原料から始まります。原料となるのは、粘土、長石、そして陶石です。日本各地の山間部からこうした原料を取り寄せ、工場の研究所で試験を繰り返し、用途に応じて最適な配合を決定します。

そうして配合された陶土は、水と一緒に泥状になるまで細かく粉砕された後、フィルタープレス(加圧ろ過)によって直径65cm、高さ1.5cmほどの円盤状(ケーキ)に形成されます。

円盤状のケーキは、近代におけるタイル製造においては珍しい、2~3mm以下の粒状に粉砕されることで、その後の型押し成形される成形体表面に御影石のような異なる表情をもたらすことができます。

最大の特徴は、こうした陶土からの開発を行いながら、それらを焼成したときに工業製品タイルとしての品質になるかの試験を同時に進めることができる、その環境にあります。陶土を注文して仕入れると、開発段階での失敗やそこで得た知見をものにすることができませんが、自社で陶土から作ることで、陶土の開発の工程で発見したことを蓄積し、次の開発に活かすことが可能です。

このように開発と試験設備を大量生産の規模で備えているのは、国内でも他にはないと思われます。

ダントーのオリジナリティは成形にも及びます。四角形の型に数種類の陶土を積み重ねるように入れて型押しし、成形体が作られます。そうすることで焼成によって最終的に一枚になったタイルに、工業製品でありながらも工芸的な要素を与えています。

ベルトコンベアーを通る成形体表面に様々なパターンを機械で加飾することも可能です。この工程によって工業製品でありながらも、天然素材ならではの微妙な揺らぎを感じさせる装飾性をタイルに与えています。

これらすべての工程に通底するのは、時代を超えた独自性を追求するための実験に対する情熱です。その熱い思いは、ダントータイルの始まりである珉平焼を作っていた頃から燃え続けているのです。

Profile

淡 (だん)―淡路島の淡 陶 (とう)―陶器

日本で最初に硬質陶器タイルを量産化したダントーは、常に革新的、実験的、精緻であること、そしてタイムレスであることを胸に、事業を展開してきました。

1885年、ダントーの歴史は瀬戸内海に浮かぶ風光明媚な淡路島で始まりました。職人技の革新性に加えて、タイルの主原料である土の配合や釉薬技法に対するたゆまぬ研究、時代を反映したデザイン、そして未来を見据えたものづくりがダントーの歴史を積み重ねてきました。

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