インディア・マダヴィ

フランス・パリを拠点にする建築家、デザイナー。2000年、パリ7区のラス・カーズ通りに建築からインテリア、空間設計、家具やプロダクトにいたるまで、分野をまたいでデザインを手がけるスタジオを開設し、その同じ通りにショールームやショップも設けています。独特の色彩とユーモアのセンスによって、現代における心地よさとエレガンスを併せ持つ独創的な空間づくりで知られています。色彩感覚に優れ、さまざまな文化圏への眼差しから生まれるインディア・マダヴィのクリエイションは、異なる文化が入り交じることで、特定の風土を限定しない、コスモポリタンかつ洗練された生活芸術を提案します。

Conversations with India Mahdavi

Interview

India Mahdavi

“A.a. Dantoは片足を過去に置きつつ、もう片足は未来に向けているブランドです。マジョリカタイルなど、19世紀に取り入れた歴史的なタイルがもつ装飾性と、常に新しい技術や表現の研究に挑んできた先進性を持ち合わせています。”

タイルのもつ可能性を提案する、新しいタイルブランド「Alternative Artefacts Danto」。

扱うデザイナーの発想次第で、無限ともいえるほどの表現を生み出すことが可能です。それはおなじ一つの食材でも、異なる料理人のアイデアによって様々な料理が生まれることと似ています。そうしたタイルの可能性を探るため、A.a. Dantoは広い視野を持つ世界各地のデザイナーとともに新たな素材づくりに取り組みます。

最初のコラボレーターはフランスのインテリアデザイナー、インディア・マダヴィ。

A.a. Dantoが生まれる淡路島を訪れ、工場を巡った彼女と交わしたダイアローグ。

インタビュー・文 長谷川香苗

A.a. Dantoの母体であるダントータイル(以下、ダントー)の工場を見て、どのような印象を受けましたか?

(IM)

ワンストップでタイルを作ることができること、それを工業的な量で生産できる設備というのが印象的でした。タイルの原料である陶土づくりに始まり、陶土の色味調整、そして焼成まで、すべて自社で行うことができる。タイルの素地そのものを重ねて成形する工程にも引きつけられました。私がこれまでに知る限りでは、タイルはレイヤーではなく、ひとつの素地でできています。ところが、ダントーの工場では、下地の陶土が工場の製造ラインを通ると、その上に新たな陶土や釉薬の層が被せられます。陶土が重なることにより、絵付けを施さずとも焼成後のタイルの表面に奥行きが生まれます。加飾の点では、釉薬をまだらなパターンとして噴射できるようにコントロールすることで、機械生産でありながらも、タイルひとつひとつの表面に微妙に異なる表情を作り出すことができます。表面に施されるわずかな揺らぎと型押し成型による精密さ、私にとってのWabi-Sabiが工業製品レベルで実現できることに驚きます。また、充実した設備には目を見張るものがあり、土を自社でブレンドすることに加えて、研究開発部門、性能検査部門など、ダントーは製造所だけではなく、研究所も完備しています。

20世紀初頭の工場が持つノスタルジックで詩的な空気が残っているダントーは本当に美しい工場でした。当時からある製造ラインは素晴らしく、それらはもっと活用できると感じます。これほど見事な設備を使って、これまでダントーの主流であった外装材とは異なる、インテリアデザインへの応用を視野に入れた新たなタイルのコレクションを作ることに胸を弾ませています。

そうしたダントーの技術や設備をデザイナーとしてどのように生かせそうでしょうか?

(IM)

一般的に工場では、機械設備と製造ラインによって、クリエイションのできる範囲が決まります。ですから、私たちにとって、設備と製造ラインの特性を十分に理解した上でデザインに取り込むことが重要でした。たとえば、先ほどお話ししたように、ダントーには陶土を3層まで重ねることのできる多層成形の技術があります。そのラインを使用することにより、自然世界の持つ均一ではないWabi-Sabiの世界を量産レベルで作ることも可能です。そこで、提案したデザインのひとつが、焼成の工程から生まれるタイル表面の表情の違いを生かした、揺らぎのあるデザインです。表面に美しい凹凸や変化を作り出すことにより、均一ではない自然界の美しさを表現できると感じ、デザインが生まれたのです。

もうひとつダントーの製造ラインの特性から試みたのが、無数のカラーバリエーションを作ることのできる陶土の技術を生かし、そこに透明釉をかけることによって生まれた作品です。。素地と釉薬の融点の違いから、焼成時に素地の表面にあえてひび割れを起こさせます。、艶のある透明釉が自然と陶土に流れ込み、色を美しく引き立たせる詩的な瞬間がタイルにもたらされました。

さらに3つ目の提案では、ダントーの歴史を遡ることを試みました。ダントーが従来作ってきた型押し成型によるレリーフ状のタイルを参考にしながらも、線ほどの細さのいくつものレリーフを十字架になるように組み合わせ、幾何学的なモチーフを作りました。一枚一枚のタイルを組み合わせていくと、独特のリズムを持つ壁面が生まれます。

そうしたタイルは、どんな空間に応用できると考えますか?

(IM)

A.a. Dantoは片足を過去に置きつつ、もう片足は未来に向けているブランドです。マジョリカタイルなど、19世紀に取り入れた歴史的なタイルがもつ装飾性と、常に新しい技術や表現の研究に挑んできた先進性を持ち合わせています。デザイナーにとっては、空間を作るうえで、どこかの時代へ言及をしたいときは、装飾性を取り入れ、これまで見たことのないような非日常的な空間にしたいときは、革新性を取り入れることができるでしょう。

デザイナーは関わった企業の業績を左右する存在だと思います。デザイナーとして、ダントーのものづくりに関わることをどのように捉えていますか?

(IM)

意義のあることだと考えています。今、製造業で見られるのは、製造の外注です。それは似たような製品が世に溢れ、外注することで価格を抑え、売上を維持しようとする流れだと思います。しかし、製造メーカーの持つ技術とノウハウを最大限に生かした、そのメーカーでしか作ることのできない製品ができれば、そうした競争にならないと信じています。そうした製品を作る上でデザイナーの関わりは大きいと思っています。

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